阪急ブレーブスがなくなるとは思っていなかった頃のSF小説。
決戦・日本シリーズ
かんべむさし
1976年 早川文庫



 阪神タイガースと阪急ブレーブスが優勝して日本シリーズになったら、勝った方の電車が負けた方の線路に乗り入れて日本一のパレードをする。電車に乗り込むのは監督以下選手全員とファン千人。車内ではどんちゃん騒ぎをして、電車は敵の線路を突っ走る。その間、負けた方は、特急も急行も時間待ちして優勝パレード電車を通過させなくてはならない。

 負けた方はこれ以上屈辱的な話はないだろうというコトで、広告代理店に勤める主人公の考えたこの企画。実行されたらどうなるのかというのがこの小説だ。

「決戦・日本シリーズ」はSF作家かんべむさしが1974年に発表したデビュー作だが、当時高校生だったボクは、バカバカしいけど実際にやったら間違いなく盛り上がるだろうなぁと思いながら読んだ記憶がある。

 阪神と阪急の関西におけるポジションみたいなものを知ったのも、この本からだった。

「たとえば、阪急夙川駅と阪神香枦園駅とは、どちらも夙川をまたぐ鉄橋上にある駅です。南北方向には徒歩十分の距離をもつ両駅も、東西方向には同一地点、大阪や神戸へは、どちらででも同じ時間でいけるのです。しかし、たまたま阪急で通勤している人は、阪神をローカル線のように思っています。阪神に乗っている人も、阪急なんてと考えています。傾向として、阪急側が阪神に対して優越感を持っているようです。阪急電鉄が創ってきた高級イメージに彼らは乗っかって、それをそのまま武器として、阪急は高級→俺は阪急→俺コーキューという位置づけをするのです。根拠も証明もありません。イメージです。願望です。欲求です。逆に阪神側も、その対抗意識のなかに、腹立たしさ、くやしさ、みじめさが多少なりとも入っています。それもその根拠はありません。相手が自分たちが高級だと言っている。先に言ってしまった。言ったもの勝ちです」

というのは、主人公が企画会議で阪急と阪神の関係を説明している部分である。

山の手を走る阪急に対して、下町を走る阪神。大阪の梅田と神戸の三宮はほぼ同一地点に駅があるのだが、あとはお互いに平行して走っていて交わることがない。ただし阪急の支線である今津線が南北に走っていて、終点は阪神今津駅と隣り合っている。実はココで阪神と阪急は線路がつながっているのだ。戦時中に宝塚にあった飛行機工場に港から資材を運ぶために、軍の命令で線路がつなげられたという。

 勝った方の電車はそこから乗り入れる。

 で、小説の中ではどちらが勝って電車を今津から乗り入れたのかというと……、実は両方が勝っているのだ。

 と、いうのはこの本、最後は2段組になっていまして、上が阪急の勝ちで、下が阪神の勝ちという形で物語の結論が書かれているのである。

 結論がふたつある小説を読んだのはこれがはじめてだった。

 SF小説らしい自由な遊びだ。

 それにしてもこの本が出た頃は、阪急ブレーブスがなくなるとは思ってもいなかったし、阪急と阪神が阪急阪神ホールディングスという同一企業の傘下となってしまうなんて想像したこともなかった。現在は今津駅の連絡線もなくなってしまったそうだし、あの西宮球場も姿を消した。

 時の流れはSF小説より奇なりということなのか……。


綱島理友の古本野球史 第24回

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