大リーグ通となったカウンター・カルチャーの旗手。
大リーグなしでは生きられない!
レイモンド・マンゴー著
1993年 晶文社刊



 1993年にこの本、「大リーグなしでは生きられない!」を見つけたときには「うひょー」と思った。
「ビール片手にご託を並べ、試合の行方に一喜一憂。好プレーに喝采し、負けゲームに悪態をつく……。ベースボールがなければ夜も日も明けないスポーツライターが、大リーグを追いかけ、全米を駆けめぐる。
 選手や監督の愉快なエピソード。味のあるスタジアム。3Aチームの哀話。忘れられない名試合――。自らの人生の軌跡をベースボールに投影し、アメリカン・ドリームをかなえる大リーグのロマンを語りつくす大いなるベースボール讃歌。」
 というコピーと著者の近影がカバーの袖に掲載されていた。
「こんな風になっちゃったのか」その近影を見て、しみじみした気分になった。著者のレイモンド・マンゴーは、70年代のカウンター・カルチャーの旗手で、81年にこの本と同じ晶文社から刊行された「就職しないで生きるには」という本に、私は影響を受けたひとりだった。
 カウンター・カルチャーについて少し説明すると、60年代から70年代のアメリカではベトナム戦争が激化する中で、社会に反抗する若者たちの間に反戦運動とヒッピー・ムーブメントが広がっていった。当時のロックミュージックをはじめ、多くの若者文化と連動したこの動きは、がんじがらめの既成価値からの解放と自由を目指し、社会からのドロップアウトをうながした。
 やがてヒッピーたちは都市生活からのがれ田舎で理想主義的なコミューンを作る。それは「もうひとつの生き方」の模索であり、文化的な反逆だった。
 で、彼らが作り上げた新しい文化を、当時はカウンター・カルチャーと呼んでいたのである。
 しかし人は仕事をしなければ生きてはいけない。それはドロップアウトした人も同じだ。ならば自分らしく生きて行く仕事は何か。マンゴー自身は書店を開業し、就職しないで自由に生きる道を模索した。彼の仲間たちも健康食品店や自然食レストラン、天然石鹸の製造販売などを手がけ始めた。
 で、このカウンター・カルチャー型のビジネスがその後、どうなっていったのかというと、あるモノはビックビジネスに成長した。そのひとつがアップル・コンピュータだ。アップルはIBMの大型コンピューターに対抗する個人ユーザー向けのパソコンを造りだし、90年代にはインターネット文化を生み落とした。
「就職しないで生きるには」という本が出た頃に、私自身も勤めていた会社をやめてドロップアウトした。会社員とは違う、もうひとつの生き方を目指したのである。そんな時に、自分自身の生き方への意味づけとしては格好の書だった。
 そしてライターとしてひとり立ちした頃に出版されたのが、「大リーグなしでは生きられない!」というこの本だ。当時はロックミュージシャンが長髪を短くしたり、かつてドロップアウトした人たちが、既成の価値の中に舞い戻る現象がいろいろ見受けられた。大リーグと言えばアメリカ文化の典型的な既成価値。マンゴーがそんな世界にスポーツライターとして入り込んでいたという事実だけでも面白かったのだが、ちょうど私自身もプロ野球に目を向けて記事を書き始めた頃だった。
「やっぱりこの方向性は世の中の流れなんだろうか」
 再び自分自身の行動に新たな後ろ盾を得たような気持ちにさせてもらった本である。カウンター・カルチャーを知らない世代には違和感があるかもしれないが、独特の切り口の野球本である。

綱島理友の古本野球史 第91回

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