プロ野球は立派な文化であると教えてくれた本。
プロ野球の魔力
鈴木武樹著
1976年 産報刊


 当時の私にとっては衝撃的な本だった。
「プロ野球の魔力」鈴木武樹著。
 出版されたのは1976年。当時、大学生だった私は、この本を読んで、プロ野球に対する見方が大きく変わった。それまでは贔屓チームの勝ち負けでしかプロ野球を見ていなかった自分に、きちっとしたファンとしてのたしなみを教えてくれたのがこの本である。
 人にはそれぞれ人生に影響を与えた本というのがあると思うのだが、自分にとってはこの新書の一冊、どうってこともない装丁のこの本こそが、それだった。
 76年というと、2年前の74年に読売ジャイアンツの連覇(V9)が中日ドラゴンズによって阻止され、前年の75年にはそのジャイアンツが最下位に転落。絶対的な常勝巨人軍という存在が崩壊した時期だった。
 そんな時に出会ったこの本。実は現在、プロ野球が直面し、多くの人から改革の必要が言われている多くの事柄が書かれている。
 著者の鈴木武樹さんは、この本の中で、すべての球団が安定して運営されるための方策としていくつかの項目を挙げている。
@チームの名称を《都市または都道府県名》+《ニックネーム》にする(高校野球や都市対抗野球から失われた地域対抗的な要素をプロ野球に注入し人気を上げる)
A球団の株式を公開する(地域住民とのあいだに連帯を生みだす)
B地域自治体との提携を密にする(都市名その他を名乗ることと引きかえに、種々の便宜を受けるようにするのである)
Cテレビジョンおよびラジオによるゲームの放送は、すべてコミッショナーの管理下におく。
D300円以上の入場料のうち、ひとりあたり一律に100円ずつを連盟がプールしてシーズンの終了後、その総額を6球団にそれぞれの本拠地人口に逆比例する比率で分配する(地方都市球団の救済策である)
E野球場の売店・広告などの収入は、野球場と球団がある一定の比率でもって分け合う。
F《セミ・プロ野球機構》を設立する(現在の社会人野球チームのうち、プロ野球から選手やコーチや監督を受け入れたいと考えているチーム、あるいは新設のチームと、現在のファームチームとで結成し、《東海リーグ》、《瀬戸内リーグ》といった形をとる。こうすれば、プロ野球から去ってゆく選手たちの再就職やカムバックがじゅうぶんに保障される)
G両リーグを8球団にする。
 と、いった按配なのだが、30年前に、こんなビジョンを持っていて、主張していた人がいたのである。
 逆に言えば、「この30年間、プロ野球界はいったい何をやっていたのか」という気さえする。なにしろこの本に推薦の辞を書いているのは、当時の鈴木龍二セ・リーグ会長。球界関係者も目を通していたはずなのだ。
 私にプロ野球が文化であると気づかせてくれたのもこの本だった。提言のほかにもアメリカと日本のプロ野球の歴史を掘り起こし、その文化的側面も懇切丁寧に説明してくれている。
 私のプロ野球に対するスタンスは、この一冊で決定したと言っても過言ではない。
 鈴木武樹さんは当時、明治大学の教授で、ドイツ文学について教鞭をとりつつ、翻訳家、エッセイスト、テレビのコメンテーターとして活躍していた。
 しかし残念なことに、78年、癌で43歳の若さで亡くなった。
 熱烈なドラゴンズ・ファンである鈴木さんは、星野仙一投手のファンでもあった。球界再編騒動の最中の阪神タイガース星野SDの主張は、まさに鈴木武樹の主張とかぶっていた。
 星野さんは間違いなく、鈴木さんの本を読んでいたに違いない。

綱島理友の古本野球史 第19回
 ●入手したい方は

さすがに「プロ野球の魔力」は入手困難。鈴木武樹氏の同時代の著作です。